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ひとり旅|灯台の持つ7つの魅力

一人旅|灯台の持つ7つの魅力
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灯台に行ってみた

観音崎灯台
コロナウイルスの感染状況が比較的落ち着いていた2020年11月の秋晴れの日、日帰りで一人旅に出かけました。行き先は三浦半島、目的は観音埼灯台を見ることでした。パソコンの起動時に表示されたスポットライト写真で、美しい灯台のある岬の風景を見たことから灯台に興味を持った私は、本物の灯台を見てみたいと思っていたのです。

観音埼灯台へは京急線で品川から浦賀まで行き、浦賀からバスで約20分、都心から片道約1時間半で行くことができます。観音埼は灯台を中心にして周囲が広く公園になっていて、釣りやキャンプを楽しむこともできます。その日は天気が良かったので、たくさんの人が公園で思い思いの時間を過ごしていました。

観音埼灯台は参観寄付金300円を払えば、灯台の中に入って上層部にあるバルコニーから外の景色を眺めることができます。階段は螺旋式になっていて、人ひとりが何とか通ることのできるくらいの狭さです。身を縮めながら何周か登っていくと、高さ15mほどのバルコニーに出られます。バルコニーは回廊になっていて、そこからぐるっと360度の景色を見ることができます。

灯台の塔から15m、海面からは50mほどの高さから見る風景は、遮るものが何もなく素晴らしい眺めです。空と海のコントラスト、ぽかりと浮かんだ白い雲、見渡せば海の上には貨物船などたくさんの船が行き来しています。陸に目を向ければ、足元の崖に生い茂った木々の葉が、光を浴びてキラキラと輝いています。風景の中に身を置いて、風を感じながら、しばし穏やかな時を過ごしました。

灯台参観のあとは公園の中を散策して海辺を歩いたり、レストランで食事をしたり、地元の土産を買ったりして夕方に帰宅し、楽しい一日を過ごしました。その日からさらに灯台のことを知りたいと思うようになり、灯台の魅力とは何かを考えるようになりました。

灯台の7つの魅力

灯台に惹かれる人には、それぞれに感じる違った魅力があるのではないかと思います。私が魅かれた灯台の7つの魅力を紹介したいと思います。

灯台がある海の景観

灯台は岬の外れに立っています。海に面した険しい断崖絶壁や、島の高台に立っていることもあります。中には交通の便が良く、開けた場所にある灯台もありますが、大抵の灯台は、海の突端や崖の上など、航行する船の中からでも目に留まりやすい場所に作られています。このため灯台のある場所は、自然の美しさと灯台という人工の建造物が一体となったダイナミックな景観を作り出しています。

また灯台は時に、紅白や黒白の縞模様のものもありますが、多くは白い塔の形をしています。しかも光を遠くに放つため、高いものでは40mにもなるなど、かなりの高さが求められます。崖の上や山の上にスクっと立った灯台の白い塔と海や空の色、山の緑などが合わさって、インスタ映えする印象的な景観が生まれます。

志摩半島にある大王埼灯台
灯台を含む景観は、昔から画題として多くの画家たちに描かれてきました。志摩半島にある大王埼灯台は、日本の灯台50選にも選ばれている、人気の灯台の一つですが、大王埼灯台のある大王町は、小野竹喬を始め、明治時代より日本画壇を代表する画家が訪れて風景画を描いており、今日でも多くの画家や絵画の愛好家がこの地を訪れて絵を描いています。このため大王町は1996年に「絵描きの町」を命名、絵画コンクール「大王大賞展」も行われています。

絵画だけではなく、灯台を含む景観は多くの写真家により撮影されており、写真集なども出版されています。灯台のイベントの中には写真コンテストなどもあり、灯台の景観と写真は切っても切れない関係にあります。

灯台は日本で最初の西洋式建築物

灯台は明治時代に西洋の技術を取り入れて、その建設が始まり、当初はフランスやイギリスから技術者を招聘して、外国人技術者の指導の下に建設が進められました。そのため明治期に建設された灯台は、日本が西洋の技術を取り入れた黎明期の貴重な文化遺産として海上保安庁により保全作業が行われており、現在でも全国で64基が現役の灯台として活躍しています。

明治期の灯台は、どれも西洋建築の様式美を携えており、同じ時代に建てられた旧古川邸や岩崎邸などの洋館とも似た趣があります。そうした西洋建築の様式美の面影を留めながらも、灯塔や灯ろうなど灯台に共通する構造を有しているため灯台に共通する様式美のようなものがあります。

また明治期の灯台は、当時コンクリートがなかったため、木製、鉄製、石造り、煉瓦づくりなど様々な材料で作られています。木製や鉄製の灯台は、耐久年数が低いため、現存するものが少なくなっていますが、石造りやレンガ造りの灯台は現存するものも多く、大正以降に建てられたコンクリート製の灯台とは違った趣があります。

角島灯台
煉瓦作りで現存する灯台としては千葉県の犬吠埼灯台、青森県の尻屋埼灯台、石造りは島根県の出雲日御崎灯台、山口県の角島灯台、香川県の男木島灯台などが有名です。

灯台の光は同じものはない

灯台は光波標識として海上の船舶が安全に航行できるよう光によって情報を伝えます。初期の灯台では、植物油や石油、ガスが光源として使われていました。その後、次第に電気が普及して光源は電化されていきます。日本で最初に電気が導入されたのは、1901年(明治34年)で、第一号は自家発電施設を設けてアーク灯を点灯させた尻屋埼灯台でした。しかし、その後は電化はなかなか進まず、第二次大戦までは、ガスや石油式の灯器を使っていた灯台が圧倒的に多く、戦後になって本格的に電化が進みました。

灯台の光は他の灯台の光と区別するために、一つも同じものがありません。灯台が放つ光の色とリズムを変えることによって、違った光を作り出しているのです。この光の仕様のことを灯質といいます。灯質は光の色と発光する回数で決まっています。例えば千葉県にある洲崎灯台は30秒間に白と赤の光を交互に放ちます。対岸の神奈川県にある剣埼灯台は30秒間に白い光を2回、緑の光を1回光らせます。

どの灯台にも個別に灯質が決められており、灯台の光を見るとどの灯台であるかがわかります。夜の海に光る灯台の光は美しいだけでなく、船舶の航行の安全を守るという使命をもって仕事をしていることがわかって灯台の光を見ると、その光がとても魅力的に思えます。私が行った観音埼灯台は15秒間に白い光が2回光ります。いつかまた、夜に行って実際に光が放たれているところを見てみたいと思います。

灯台の歴史を知る

明治維新と共に西洋の技術者の手によって日本にもたらされた灯台は、歴史も興味深いものがあります。明治元年から10年ほどの間に、外国人技術者の指導を受けて灯台が日本各地に次々と建設されます。その薫陶を受けた日本人技術者が、外国人技術者の帰国後に、日本人による日本人のための灯台を次々に建設します。

当初は諸外国の船が日本の港に入港する際の安全確保のための灯台建設でしたが、明治政府の富国強兵政策で、日清、日露の戦争に勝利すると、灯台は日本の軍艦を安全に航行させる目的で整備されていきます。太平洋戦争の時期には一層軍事目的での利用が盛んになり、敵機及び敵艦船の監視の任務をも担うことになります。あらたに気象観測の業務も加わります。しかし、灯台は敵機から視認しやすい岬や島の高台にあるため攻撃の対象となり、多くの灯台が激しい空襲に晒され、壊滅的に破壊されてしまいます。また灯台の業務に当たっていた灯台職員の殉職も相次ぎました。

戦争が終わり、米国の占領下にあった日本は、占領軍から三年以内に航路標識の復旧をせよと命じられます。終戦直後の物資が不足する中での灯台の復旧作業は困難を極めましたが、1950年ごろにはほぼ戦前と同程度にまで回復させることが出来ました。

戦後になると光波による標識に代わって電波による標識が徐々に普及していきます。また灯台守の過酷な生活の改善もあり、灯台は無人化の方向に向かっていきます。昭和32年には灯台を管理する事務所の集約化がはじまり、ほぼ30年の月日を掛けて完全無人化が実現します。人の手によって守られてきた灯台の歴史はここでひとまず区切りをつけることになります。

明治維新と共に始まった灯台の歴史は昭和の終わりに区切りをつけ、以降は観光資源、歴史遺産としての性格を徐々に強めていきます。この120年間の歴史そのものが灯台の魅力の一つと言えると思います。

灯台の光はレンズによって生まれる

灯台の塔の上部には、灯ろうと呼ばれる小屋のようなものが設置されています。灯ろうにはレンズや光源を覆って風雨から守る役割があります。灯ろうの中には、灯室という灯器を設置する部屋があり、レンズはここに収められています。灯台の光は回転する光源が、遮蔽版または彩色ガラスに当たるタイミングによって閃光、灯色、周期が決まります。それがレンズで拡大されることによって、夜の海に力強く光線が投射されます。

灯台のレンズは発明者の名前にちなみ、フレネルレンズと呼ばれています。このフレネルレンズには等級があって、一番大きなレンズは1等、小さくなるにしたがって数字が大きくなり6等まであり、それ以下は無等となります。

またフレネルレンズは光り方によって2種類に分けられます。一つは回転するレンズで、「閃光レンズ」と呼ばれています。レンズが自分の方を向いたときだけピカッと光ります。もう一つは「不動レンズ」と呼ばれ、そのままでは光ったままで点滅しません。光源を点滅させるか、色の付いた遮蔽版で覆って光に色を付けたりします。レンズの下にはレンズを回転させる装置が備え付けられています。

レンズや回転装置が一体となった光を発するメカニズムと、夕暮れ時にレンズが回転を始めて光を放ち始めるときのレンズのきらめきも灯台の魅力と言えるでしょう。

灯台守が守ってきたものとは

灯台守と言えば、年配の方は『喜びも悲しみも幾年月』という映画や「おいら岬の灯台守は妻と二人で、沖行く船の無事を祈って、灯をかざす、灯をかざす」の主題歌の一節を思い出すかもしれません。

明治維新と共に日本に灯台が誕生してから、灯台業務の完全自動化による灯台守の廃止までのおよそ100年間、灯台守は灯台に住み込んで、灯台の保守点検業務を担ってきました。明治のころに作られた灯台が、100年後の今日でも美しい姿を留めているのは灯台守のおかげでもあるのです。

灯台はその設置目的から陸地の最も先にあります。最も海に突き出た場所、岬の先端や港湾の入り口の小島、しかも遠くからでもすぐに認識できるように高い山の上や断崖絶壁に作られることが多いのです。灯台守はこのような辺鄙で不便極まりない土地に住み込んで24時間、年中無休の態勢で灯台を守ってきました。

現在のように道路も自動車も発達していなかった時代、灯台と生活圏を往来することは容易ではありませんでした。灯台守の家族は自給自足の生活を強いられ、また公平性を期すために数年で灯台から灯台へ移動するという転勤も頻繁に行われていました。

しかも先の大戦の戦時中には、灯台は真っ先に敵の攻撃の的になり、多くの灯台が破壊され、殉職する職員もいたのです。過酷な生活と業務の上に命の危険にさらされながら灯台を守ってきました。

そんな灯台守たちの、当時の苦労をしのびながら灯台を眺めれば、今の灯台が美しい姿で残っておりことに感慨が深まります。

観光地の中心としての新たな役割

技術の進歩に伴い、航路標識も光を使った光波標識から電波を使った電波標識へと徐々に切り替わってきています。そのため従来の役割を終えた灯台の廃止が近年進んでいます。また、かつては灯台の保守点検を担ってきた灯台守の業務が自動化によって無くなり、灯台守に代わってどのように灯台を守っていくかが問われるようになりました。

そこで海上保安庁は、灯台のある地元の自治体などと協力して、灯台が持つ歴史的、文化的な価値を観光の目玉として、保全し発展させようと試みています。例えば灯台の周辺を整備して公園として来園者に多角的な楽しみ方を提供したりします。

私が訪れた観音埼灯台も周辺が公園になっており、灯台の参観だけでなくキャンプや釣り、レストランでの食事を楽しむことができます。公園の近くには美術館もあり、灯台だけではなく総合的なレジャー施設として訪れる人に様々な楽しみ方を提供してくれます。

各地で灯台に関するイベントも盛んになり、灯台を起点とした観光の名所も次々に誕生しています。灯台守に代わって灯台を愛する人たちがそれぞれに灯台を守っていく取り組みを行っています。

私が感じる灯台の魅力

これまで挙げてきた灯台の魅力は、どれも素晴らしいなあと感じるものですが、その中でも私が特に感じる魅力を3つ挙げます。

一つ目は灯台を含む海の景観です。海が好きな私にとって海の景色はそれだけで心癒される風景です。白くて美しい灯台が、切り立った崖の上や山の上に佇み、海を見下ろしていたり、灯台の上に上がって360℃遮るものがない眺めを堪能したり。贅沢なひと時を味わえる、まさに絵になる景観は誰もが納得する魅力ではないでしょうか。

二つ目は建築物としての灯台です。とくに明治期に建設された灯台は西洋式の建築様式を踏まえており、洋館と共通する風情があります。使われている素材もコンクリートではなく、煉瓦や石、鉄製などさまざまで、それぞれに趣が異なります。灯塔やバルコニー、螺旋式の階段などにも魅力を感じます。

三つめは灯台が歩んできた歴史です。明治、大正、昭和の三つの時代を乗り越えてきた灯台、明治の灯台黎明期、大正の発展期、昭和の戦争受難期と復興期、それぞれの時代の歴史の大きな流れの中で、灯台がどのように作られ、役目を果たし、守られてきたのかを知ることは尽きない興味です。灯台守の苦労も歴史の一部として語り継がれなければならないでしょう。

まとめ

ふとしたことで観音埼灯台に行ってみたおかげで灯台のことを知りたいと思い、その魅力を探ってみました。ここに上げた魅力以外にも違った点から灯台に魅力を感じている人もいるかもしれません。

知識を得ることも楽しみの一つであり、それもまた魅力の一つではありますが、何と言っても実物の灯台やその景観を眺めて灯台と共に時間を過ごすのが何よりの魅力であると思います。

不動まゆう|愛しの灯台100不動まゆうさんが書いた『愛しの灯台100』にば、不動さんが実際に訪れて見た100基の灯台のそれぞれの魅力が簡潔に、しかも雄弁に語られています。私はこの本を読みながら、次はどの灯台に行ってみようかと思いを巡らせました。灯台に関する豆知識も得られてお勧めの一冊です。

>>愛しの灯台100【不動まゆう】

新たな魅力を発見できる灯台巡りの旅に出られる日を心待ちにしています。