お墓を守る人がいない、遠方にあるお墓の手入れができないなどの理由から、墓石を処分し、お墓をなくすことを考える人が増えています。
墓じまいとはお墓を撤去して遺骨を他の墓地に移転したり、永代供養墓地に改葬することです。
墓じまいの背景にあるもの
多くの日本人は長い間、先祖代々のお墓を守って引き継いできました。お墓を引き継ぐのは一家の長である長男で、次男、三男は分家して新しいお墓を建て、死んだらそこに入り、その家の長男がまたそのお墓を引き継いで守るという伝統が続いてきました。
しかし、生まれてくる子どもの数が減るにつれて、お墓を引き継ぐ人も少なくなってきました。女の子だけの家庭で、その子たちが他家に嫁いでしまったりすると、お墓を守ってくれる人がいなくなってしまいます。両親は自分が生きているうちはなんとかお墓を守ろうとしますが、高齢になってお墓の掃除もままならなくなると、お墓を守ることも難しくなります。
また、地方から東京や大阪などの大都市に来て就職し、そこで家庭を築いた人はお盆や年末年始に帰省すればいい方で、めったに故郷に帰らない人たちもいます。両親が地元にいるうちはお墓参りもしてくれますが、自分たちが引き継ぐことになっても、お墓参りのためだけにわざわざ帰省できないという人たちもいます。
そうした、お墓を引き継ぐ人がいない人、お墓が遠くて墓守りやお墓参りができない人たちが考え始めたのが墓じまいです。墓じまいは、今あるお墓の墓石を解体・撤去して、お墓の中から遺骨を取り出して別の場所に移し、墓所を更地にしてお寺や霊園に返却することを言います。
独身だったり、子供がいなかったりする人たちの中には、自分の死後先祖代々の墓は誰がどのように供養してくれるのか心配になる人が多いようです。また、子供がいても孫がいないとなると、自分の墓守を子供の後は誰が面倒見てくれるのか不安になります。そこで、早い時期から墓じまいについて考える人は老計、死計を考えていることになるのでしょう。
墓じまいで最も大切なこと
墓じまいを考えるとき、最も大切なことは、お墓から取り出した遺骨をどのように供養するかです。遺骨を今あるお墓から取り出して別の場所に埋葬することを改葬と言いますが、改葬には色々な方法があります。例えば故郷から遠いところに住んでいる人は、今住んでいる場所の近くにお墓を移設するということもあるでしょうし、墓石がある従来のお墓ではなく納骨堂に納めたり、手元で供養したりする方法もあります。
どのように改葬するのかは、墓じまいをする人が最も時間をかけて慎重に検討すべきことです。
先祖への供養の気持ち、最近亡くなった配偶者、家族、親族への想い、そして将来自分がどのような形で弔われたいのか、これらのことを自分の心に問うて、じっくり自分の声に耳を傾ける必要があります。
また、墓じまいをしようとしているお墓は自分一人のものではありません。先祖代々のお墓であれば、直系の親族だけでなく、伯父、伯母、従姉妹など多くの親族が関わっているかもしれません。少しでも血縁のある親族には墓じまいの意向を伝え、十分に話し合った上で、賛同してもらうことが大切です。また自分が死んだ後に、残された子供たちがどのように供養をしたいのか、子供の気持ちも慮る必要もあります。
お墓に関わる全ての人たちとじっくり話し合い、納得のいく方法であらたな改葬先を決めることが重要です。
永代供養とは何か
墓じまいをしてお墓の遺骨を別の場所に移して供養をする際に、考えておきたいのが永代供養です。永代供養とは、お墓参りに行けない、お墓を管理する人がいないなどの人に代わって、お寺や霊園が管理や供養をしてくれる埋葬方法を言います。「永代」といっても未来永劫ではなく、例えば33回忌までとかの一定の期間までということが多いようです。
墓じまいをしようと考える人は、お墓参りに行けないとか、将来的に管理ができなくなるといった人が多いので、永代供養は一つの答えになる可能性があります。ひとくちに永代供養と言っても色々な方法がありますが、大きく分けて「屋内型」と「屋外型」があります。
屋内型の永代供養
「屋内型」は一般には「納骨堂」と呼ばれるもので、ロッカータイプのものや、稼働収納タイプのものなど様々なタイプがあります。墓地とは異なりますが、代々の遺骨を納めることでお墓と同じ機能を持つことが可能です。これまでのお墓が一戸建ての住宅ならば、納骨堂はお墓のマンションと言ったところでしょうか。交通は便利で、お墓の掃除は不要、しかも屋内にあるのでお墓参りも天気に関係なく楽にできます。
納骨堂は契約で、例えば33回忌までなどの一定期間までは家ごとに個別の管理ができます。その場合は、管理元の霊園などに管理料を支払います。通常は一定期間が過ぎたら遺骨は合祀墓に移されて他の遺骨とともに供養されます。
屋外型の永代供養
「屋外型」には、単独墓と言って、通常のお墓と同様に故人ごとに墓石を建てて一定の期間は個別に供養し、17回忌や33回忌が過ぎたら合祀されるお墓があります。また集合墓は、石碑や塔の下にまとめて骨壺を納めるお墓で、こちらも一定期間が過ぎたら合祀墓に移されます。合祀墓は大きなモニュメントの下に遺骨をまとめて埋葬します。費用はリーズナブルですが一度合祀墓に入ってしまうと遺骨を取り出すことはできません。
屋内型と屋外型で色々なタイプがあり、それぞれに特徴がありますので、個別に良く検討しましょう。
墓じまいを終えてからすべきこと
改葬先が決まって墓じまいの一連の手順に従い作業をすれば、墓じまいそのものは完了です。しかし、遺骨は先々まで供養が必要ですし、改葬方法にはどのように供養をしたいのかという自分の気持ちが表われます。
毎日のように故人への想いに寄りそっていたければ、骨壺を部屋に置いたり、遺骨を加工したアクセサリーを身につけたりする手元供養がいいかもしれません。故人がこよなく海を愛していたなら海洋散骨がいいかもしれません。離れて暮らす家族がそろってお墓参りをしたいなら交通の便の良い納骨堂がいいかもしれません。
これまでの伝統的なお墓参りの習慣も、もちろん大切ではありますが、せっかく墓じまいをするのですから、自分なりの新しい弔いや供養の方法を見つけて、無理なく心を籠めて祖先や故人を忍ぶことができるようにしたいものです。そこで、墓じまいについては定年を迎える少し前のアクティブに活動できる頃から始めると良いでしょう。
まとめ
近年、先祖代々のお墓を引き継ぐ人がいなくなった、高齢でお墓参りに行けなくなったなど、お墓の管理ができなくなったために墓じまいを考える人が増えています。墓じまいとは今あるお墓の墓石を解体・撤去して、遺骨を他の場所に移して供養することです
墓じまいを考えるにあたっては、まずは家族はもちろん、親族などの関係者と良く話し合い、納得してもらい同意を得ましょう。また墓じまいで一番大切なことは、今あるお墓の処分ではなく、改葬する遺骨のこれからの供養の仕方をどのようにするかです。
従来のお墓の概念は変わりつつあり、供養の方法も永代供養や手元供養など色々な方法があります。せっかく墓じまいをするのであれば、これまでのお墓や供養の概念にとらわれず、自分らしい供養の方法を選びましょう。