灯台の魅力に目覚める
ちょうど一年前の10月末日、三浦半島にある観音埼灯台に行きました。観音埼灯台は品川から京浜急行で1時間、浦賀からバスで20分のところにあり、東京から行ける日帰り灯台の一つです。灯台の周辺一帯は広い公園になっていて、土曜日だったこともあり、釣りやキャンプをする多くの家族連れや観光客で賑わっていました。
>>観音崎灯台の旅行記
灯台は観音埼公園の中心にあり、小高い山の上にスクっと立っていました。参観料300円を払って中に入り、人が1人やっと通れるくらいの狭い螺旋階段を登りきってバルコニーに出ると、目の前に真っ青な海が広がっています。浦賀水道を航行する大小さまざまの船や、飛び交うカモメ、同じく真っ青な空にぽっかり浮かぶ白い雲、崖下に茂る木々の緑、これらが一望のもとに見渡せます。この景観の美しさと吹く風の心地よさにすっかり魅了されてしまいました。
それから灯台への関心が高まり、灯台に関係する本を読んだり、ネットで情報を調べたりして、灯台に関する知識も増えました。しかし、2020年の年末から2021年の秋まで、断続的にコロナによる緊急事態宣言が続き、実物の灯台を見る機会はありませんでした。ようやく宣言が解除となり、思い切って2つ目の灯台・・・犬吠埼灯台を目指すことにしました。
犬吠埼へ行こう
東京から犬吠埼へは電車とバスの2つの交通手段が使えます。
バスであれば、東京駅から犬吠埼まで2時間半で行ける直通の高速バスが走っています。電車の場合は、同じく東京駅からJR総武本線の特急「しおさい」に乗り、銚子で銚子電鉄に乗り換え、約20分で犬吠駅に到着します。
私は行きは往路はバス、帰りは復路は電車を使いました。
>>高速バス予約【東京→犬吠埼】
8時5分発のバスに乗り、犬吠埼へ向かいます。一時間ほどで高速を下り、後は一般道を走ります。途中にはかなりたくさんのバス停があったので、少し驚きました。スマホの充電用のUSBのジャックが各座席についているなど、りっぱな高速バスですが、庶民の足としても使われていることがわかりました。10時半ごろ、終点の一つ手前の「犬吠」というバス停で下車しました。目の前に「犬吠埼ホテル」という大きなホテルがあり、そこから歩いて10分程度で灯台です。
【犬吠埼ホテル】
【広場から見た犬吠埼灯台】
灯台の受付で、参観寄付金300円を払い灯台の内部に入ります。灯台の中はらせん状の階段が続きます。近くの九十九里海岸にちなんだと言われる99段の階段を登りきるとバルコニーに出ます。目の前には太平洋の大海原が広がっています。
【バルコニーから見た景色】
当日のお天気は残念ながら快晴とは言えず、時折、薄日が差す程度の曇り空でしたが幸いなことに風は冷たくなかったので、海風に身を任せて、心行くまで灯台からの風景を堪能しました。それから99段の階段を下りて、灯台の敷地の中にある資料館で灯台にまつわる展示物をゆっくり見て回りました。
犬吠埼灯台とは
犬吠埼灯台は、明治5年(1872年)9月28日に着工し、2年後の明治7年(1874年)11月15日に完成した日本で24番目の西洋式灯台です。明治政府がイギリスから招聘した灯台技師のリチャード・ヘンリー・ブラントン(以下、ブラントンと略称)の設計による煉瓦造りの灯台で、煉瓦造りの灯台としては、同じくブラントンが設計した、青森県の尻屋埼灯台に次ぐ、高さ31.3mの高い灯台です。犬吠埼灯台は日本の代表な灯台と言われるだけの、いくつかの際立った特徴を持った灯台です。
【犬吠埼灯台】
構造が革新的
先程述べたように、犬吠埼灯台は日本灯台の父と言われたブラントンが設計した灯台で、高さ30mを超える、煉瓦作りの高い灯台です。外からの見た目からはわかりませんが、円筒形に上すぼまりになった灯塔の外壁と内壁の間に空間を作り、8か所の放射線状の接合壁(バットレス)で両側の壁をつないだ二重構造になっています。
犬吠埼灯台の前に建てられた、同じくブラントンが設計した煉瓦造りの尻屋埼灯台も同様の構造を有しており、ブラントンが煉瓦造りの高塔を設計するにあたり、強度に配慮したであろうことが推測できます。この構造設計の効果か、犬吠埼灯台も尻屋埼灯台も、その後に関東大震災や東日本大震災などの大地震があったにも関わらず、完成から130年余を経た今も完成当時のままの姿で立っています。
国産煉瓦の使用
コンクリートがなかった明治時代に作られた灯台は、石造りや煉瓦造り、鉄製が多いのが特徴です。灯台の立地の近くで灯塔に適した石を産出できない時などは、直接海水を被る恐れが少ない灯台では煉瓦が採用されました。
【灯台に使われた煉瓦】
当時は、日本には良質の煉瓦がないという理由で、イギリスなどの外国からの輸入に頼っていました。非常に高価で輸送費もかかり、建設コストに大きく影響を及ぼしていました。そこで建設に携わった日本人技師の一人である中沢孝政が国産の煉瓦を使用することを主張し、現在の千葉県成田市で製造された19万3千枚の煉瓦が灯塔に使用されています。灯台の敷地内にある灯台資料館で使われた煉瓦の実物を見ることができます。
1等レンズ
犬吠埼灯台のレンズは日本に5基しかない、最大の第1等レンズを使用しています。4面フレネル式閃光レンズと言って、レンズは水銀に浮かべてあってモーターで1分間に1回転します。レンズが4面あり、15秒に1回、ピカッと白い光が放たれます。メタルハライドランプ400ワットの電球を使って100万カンデラの明るさを持ち、光が届く距離は約36kmにも及びます。
【国産第一号の1等レンズ】
灯台資料館には国産第1号の大型1等レンズが展示されています。1等レンズとレンズを回転させる装置の全容を見ることができます。その迫力には圧倒されます。
霧笛舎
霧の多い犬吠埼の海域では灯台の光が届かない時には霧笛を鳴らして航行する船舶に灯台の位置を知らせていました。灯台の敷地内には明治43年(1910年)に建てられた鉄造構築物の霧笛舎が現存していて、2014年12月に登録有形文化財に登録されました。霧笛は2008年3月末を持ってその使命を終えています。
かまぼこ型の屋根の上には拡声器が備え付けられていて、そこから30秒間隔で5秒間、霧笛が鳴らされました。その音はプオーン、プオーンというラッパのような音です。私が訪れた時は塗装修繕工事の最中で、緑色のカバーが掛かっていて、残念ながら見学はできませんでした。
地球のまるく見える丘展望館
犬吠埼灯台の見学を終えて、近くのドライブインで昼食を食べてから、徒歩で行ける場所を探して散策を始めました。銚子電鉄の犬吠駅を経て、海とは反対の方に小高い丘があり、その丘の上にある「地球のまるく見える丘展望館」を目指しました。犬吠駅から緩やかな坂を上ること15分、丘の上に立派な建物が建っていました。
入館料420円を払って入館し、展望台のある屋上に行きました。ここは銚子で一番高い丘だそうで、四方が眼下に見渡せます。水平線に目を凝らすと、地球の丸みがなんとなく感じられます。犬吠埼灯台もやや遠くに見ることができますし、銚子ジオパークで有名な屏風ヶ浦もはっきり見えます。
展望台で風に吹かれて景色を見終わった後は1階下のカフェでコーヒーを飲みながら貰ったパンフレットを眺めたり、海を見たりしながらゆっくりと時間を過ごし、犬吠駅に戻って、売店で銚子電鉄の有名土産のぬれ煎餅を買って帰路に就きました。
灯台に惹かれる
昨年の観音埼灯台に続いて、今回は犬吠埼灯台に行きました。2つの灯台に実際に行ってみて、共通点や違いが分かり、前回以上に楽しい訪問となりました。日本には北海道から沖縄まで、全国に上れる灯台が16基あります。
各灯台では灯台参観記念スタンプ帳(150円)を販売していて、参観記念としてスタンプを押すことができます。御朱印長の灯台版のようなものです。
【灯台参観記念スタンプ帳】
前回観音埼灯台に行った時には買わなかったのですが、今回は1冊購入し、スタンプを押しました。受付の人の話では2021年10月25日現在で43人の人が16基をすべて回ったそうです。私もその中の一人になりたいなあと夢が膨らみました。
灯台には様々な魅力があります。灯台が立っている岬の外れや山の上から見た景観のすばらしさ、100年以上の歴史を持つ建築物の優雅さ、構造上の特徴、灯台が歩んできた歴史、これらが一体となって訪れた人の心に懐かしさや驚きを与えてくれます。
犬吠埼灯台シニアひとり旅のまとめ
灯台見学も2回目となると見どころが分かってきて、前回以上に灯台の魅力を満喫することができました。灯台から見る景色はもちろんのこと、灯塔の設計や、使われている材料、レンズや灯台に付属する建物、その灯台にまつわる歴史や物語にも深く触れることができました。
車があれば、周辺の観光も銚子ジオパークへ行くなど、かなり広範囲に楽しむことができたと思いますが、徒歩であっても足の向くまま、気の向くままに歩いて周辺を散策し運動にもなり、楽しみはいっぱいありました。灯台は辺鄙な場所にあるため、交通の便が悪く、東京から日帰りで行ける灯台には限りがありますが、次回も機会があれば出かけてみたいと思います。